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米国製ピアノの魅力1 「安酒場のピアノ」なのか? [ピアノ]

前回に続いて「米国ピアノ」のお話です。

僕が若い頃(1980年代)、すでに国産メーカーのピアノは、
大量生産による「金儲け」を優先するあまり、 「プラスチッキーな音色」しか出せなくなっていました。

その事実に気付いたのは、知り合いのピアノ技術者の工房で、
何十年か以前の(戦前〜和30年代頃までの)ヤマハやディアパソン等の弾いた際、 素晴らしい響板のお陰で、豊かなで深みのある「木の音色」が出せたからです。

それで ピアノの音の「良し悪しき」は「製造技術」ではなく、
「感性」や「経営理念」に起因するのだ、と分かりました。

尤もそんな事が分かったとて何の得にもならず、
なんとか 「木の音色」がする「本物のピアノ」を手に入れたい、
と願いつつもお金がない。

それで比較的安価な「米国製ピアノ」はどうか、と考え、
心斎橋にあったピアノ屋さんを訪れました。

「ホンキートンク」な米国ピアノに違和感あり!

実は後年、僕は「ピアノ業界」に関わるようになり、
そのピアノ屋さんとも付き合いが始まりますが、
そのピアノ屋さん、と言うか大概の店は、
「値引き」や外装だけに拘る「ど素人」には、
粗悪二流品を売りつけて稼ぐ、と言う商法をします。

しかし「ピアノ好き」には結構親切に「真実」を教えてくれ、
長い付き合いが始まる、と言う商法をします。

スタインウェイやベーゼンドルファーが「一流」なのは常識、
ヤマハだって世界一の製造技術による「安心な工業製品」です。

そんな事は教えられなくても知っていますが、
問題は国内外の「一流の下」や「二流」メーカーのもの。

国産の「手造り工芸品」については、良かった例をあまり知りませんが、
欧米製はマイナーメーカーであっても、本当に良い場合があるので、
案外、お買い得なモノに出会う場合もあります。

その辺りの事情について虚真こもごもで教えてくれた訳ですが、
そのピアノ屋さんには「ボルドウィン」という米国製ピアノが沢山並べてありました。

今から思えばKimball もあったかも知れませんが、
「ボルドウィン」に目が行ったのは、僕が崇拝していたオーディオ評論家で
音楽やピアノにも造詣が深い高城重躬さんの「スタインウェイ物語」と言う本で、
紹介されていたので知っていたからです。

高城さんによれば「ボルドウィン」は米国ではスタインウェィに次ぐブランドで、
バーンスタインがカーネギーホールで弾く程の楽器であり、
コニサーと言うレコード・レーベルから出したイアン・モラビッツが
「ボルドウィン」のフルコンで録音したレコードの「録音が素晴らしい」との事。

尤も僕が「ボルドウィン」に注目したのは、
ドイツ製の「グロトリアン・スタインヴィヒ」がアップライトでも
国産小型グランドの倍したのに対し、「ボルドウィン」ならば、
国産小型グランド程度の価格と言う点。

これならば、なんとか手が届きそう。

それで試弾と言う事になりましたが、
出てきた音は外見同様に「西部劇」に出てくる
「ホンキートンク(安酒場の)ピアノ」という感じ。

あまりにも「国産」と違う作りに驚く

高城さんの本によれば、ピアノ購入に際しては、
つい「自慢のレバートリーをパラパラ」と弾く、となりますが、
そうでなく、鍵盤を端から順に鳴らし、音のバラツキ等をチェックせよ、との事。

ところが「ボルドウィン」はバラツキなんてものでない、
隣の鍵盤とで音質がガラッと変わるわ、
鍵盤は波打ってるわ、で到底「合格」には程遠い。

「購入後に調整」すれば、ある程度の部分は好転する、にせよ、
更に問題に思えたのが音色。

何台か並べてあった「ボルドウィン」を片っ端から弾きましたが、
どうも「ホンキートンク」風の音色傾向は変わらない様子。

今でこそ、僕も西部劇に出て来るような「ラグタイム」を弾き、
「ホンキートンク」も面白がれますし、実際、Kimball Piano Salonのリビングにも
「ホンキートンク」としか言いようがないアップライトピアノが転がっています。

しかし 当時、ジャズならビル・エバンスやキース・ジャレット
クラシックならばミケランジェリやルービンシュタイン等の
「クリスタルガラスのような澄んだ音色のピアノ演奏」を理想としていた僕には受け入れ難い。

幾ら何でもこの「ホンキートンク」は自分には合わないな、とガッカリして帰宅。

改めて弾いた自宅のディアパソンの良さに納得。

流石に、設計者大橋幡岩の直弟子の名調律師である川島喜八師が直々に整音して下さった
我が「183Eグランドピアノ」のベルベットとは言えぬにせよ、
レーヨンのような滑らかな音色と深みのあるタッチが宜しい。

と喜びつつ、暫くは弾くと音色に「何かが足りない」。

それで想うところがあり、ジャズピアニスト、ビル・エバンスの
古いレコードである「ムーン・ビームス」や「エブリバディ・ディグス」を
聴き直しまして発見。

家庭用という事に限定すれば、
最良とも言える国産クランドピアノにはなくて
「ボルドウィン」小型アップライトピアノにあったものは何か?

大阪梅田芸術劇場北向かい Kimball Piano Salon 電話0705-438-5371
http://www.eonet.ne.jp/~pianosalon(2021年2月からの新URL)

(次回に続く)

リンク
高城重躬氏の名著「スタインウェイ物語」。世界のピアノブランドや奏法の事が分かる名著。

スタインウェイ物語—ピアノのメカニズムと演奏技法

スタインウェイ物語—ピアノのメカニズムと演奏技法

  • 作者: 高城 重躬
  • 出版社/メーカー: インプレス
  • 発売日: 2005/10/01
  • メディア: オンデマンド (ペーパーバック)



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音楽教室に米国製グランドピアノを設置した理由 [ピアノ]

僕が大阪梅田で主宰している「キンボール・ピアノ・サロン」には
米国製Kimball のグランドピアノが設置されています。

Kimballは歴史こそスタインウェイより古い、
19世紀半ばにシカゴで創立されたブランドですが、
日本のヤマハやカワイに相当する家庭用のありふれたピアノです。

僕達がヤマハでもなく、スタインウェイでもなく、
Kimballのグランドピアノを練習室用に、
アップライトをリビングルーム用に設置した理由は、
「たまたま入手できた」という事情が大ですが、
「米国ピアノが好きだから日本で普及させたい」
という気持ちも小さくありません。

という訳で「米国ピアノ」の魅力は何か? ヨーロッパ製や国産と比べて良いのか悪いのか?
等の「ピアノの話」を今日は書きましょう。

米国製ピアノはジャズ向け?

僕は商売柄(?)色々なピアノに触れ、所有したり、
手放したりしますが、今、所有しているのは、
グランド、アップライト共に米国製ばかり、
と気づきました。

「米国ピアノ」ブランドに関しての私感を述べれば、
ニューヨーク・スタインウェイのセミコンサート・グランドは 「個人で所有できるピアノ」としては最高の一つでしょう。

KimballやBaldwinのアップライトや小型グランドは、 家庭のリビングやカフェ用として「弾いて最も楽しいピアノ」の一つでしょう。

1920年代にブランドが消滅しましたが、
クナーベやチッカリングの中型グランドピアノは、 ティファニーのアクセサリーのような美しい外装と 「恍惚的な音色」を有する逸品と言えるでしょう。

「米国ピアノの話」で想い出すのが、以前頂いたご質問。

「ジャズ向けのピアノってありますか?」 「ジャズには米国製ピアノが合いますか?」

加えて「米国製ピアノはクラシックには合いませんか? 」
なんて質問もありました。

結論を言えば、最も庶民的なKimballから、
最高級のNYスタインウェイまで、
「米国ピアノ」は「ジャズ」にも合いますが、
「クラシック」にも合います。

そもそも「クラシック」を弾くために、
「米国製」に限らず、ピアノは生まれた訳ですし。

「国産ピアノは音が甲高いから嫌だ」

僕自身、若い頃は、「米国製ピアノではクラシックは弾けないのではないか?」
との誤解がありました。

とは言うもの僕が学生時分〜二十代にかけて、実際に弾く機会を持てたのは、
学校やライブハウス等ののヤマハやカワイ、自宅の「ディアパソン」位のもので、
米国やヨーロッパのピアノを弾く機会は殆どありませでした。

尤も自宅にあった親に買って貰った「ディアパソン183E」という
グランドピアノに僕は充分満足していましたが…。

或いは同じ時代のスタンダードとも言えたヤマハのグランドピアノでG3やC3は
今の時代に流通する「中古」としては「最もお勧めな一台」でしょう。

にも関わらず「他のピアノ」が欲しくなったのは、
お世話になったピアノ技術者の工房で、
同じ「ディアパソン」の昭和30年代に作られた古いグランドピアノを
弾かせて貰ったから。

あまりの「音色の良さ」に驚愕。

或いは実家用に購入したヤマハの戦前のアップライトピアノも
同じ位に深く、柔らかく、美しい音色も感動もの。

蛇足ながら今時の「中古ピアノ市場」では、
グランドでは当時のヤマハG3やディアパソン183E、
アップライトではU3やW109、ディアパソン132が
「お薦めの一台」として出回ります。

僕も友人がその一台を購入した、と言えば
「良い買い物したな」と誉めてやるでしょう。

但し、今となっては一般にはお勧めしませんが、
戦前から昭和30年代位のヤマハや昭和30〜40年代頃のディアパソンには、
世界的に観ても最高の響板である「北海道エゾ松」や良い部材が用いられ、
「本物のピアノ」の条件である「木の音色」がします。

それらと並べて弾くと183EやG3は
「プラスチッキーの音」としか言いようがなく
耳を覆いたくなります。

ドイツの「グロトリアン」に驚嘆した

ところで今僕が愛用するのは偶々「米国製ピアノ」ばかりですが、
ヨーロッパのピアノも好き、と言いますか、最初に感動したのは
ドイツの「グロトリアン・スタインヴィッヒ」と言うブランドのピアノでした。

若い頃の僕は代理店さんの好意で(というか図々しく乗り込んで)、
「グロトリアン」を弾かせて貰い、国産からすれば「別世界の音色」に
「本物のピアノ」とはこう言う音色を指すのだ、と心を奪われました。

「グロトリアン」と「スタインウェイ」はいわば「親戚」で、
19世紀にスタイインウェイ(スタインヴィッヒ)一家が米国に移民する際、
ドイツに残留した長男が磨き上げたブランドで「クララ・シューマンが愛用した」とか。

世界中のコンサート・ホールの「定番」はスタインウェイですが、
アップライトでは「グロトリアン」が世界一と言われていました。

実際に弾くと、小さな、情けないような簡素なボディのアップライトながら、
国産ではグランドピアノでも聴けない、甘く、深く、柔らかく、しかし芯が力強い音が、
栓を抜いたシャンパンの如くフワッーと盛り上がって来たので腰を抜かしました。

問題は価格で、当時国産の小型グランドピアノが70万円位だったのに対し、
グロトリアンのアップライトは150万円と倍の価格。
(今はそれぞれ二、三倍しますが…)

大卒の初任給が10万以下だった当時、とてもではないが、
手が出せない高嶺の花でした。

(次回「米国ピアノの魅力1 」ホンキートンクへ)

リンクは「グロトリアンを愛用したドイツの戦前の巨匠ワルター・ギーゼキングによる
「モーツァルト・ピアノ・ソナタ」集)

Kimball Piano Salon 大阪梅田芸術劇場北向かい(音楽教室&レンタル練習室)
http://www.eonet.ne.jp/~pianosalon(2021年2月からの新URL)


モーツァルト:ピアノソナタ第14番~第17番、他

モーツァルト:ピアノソナタ第14番~第17番、他

  • アーティスト: ギーゼキング(ワルター),モーツァルト
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2008/12/26
  • メディア: CD



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