SSブログ

ピアノのアフタータッチは「リズム感」で決まる [Lee Evans Society]

前々回、僕は「キーボード奏者」時代に「
アフタープレッシャーを活用するキーボード奏法」を習得した事で自分の「ピアノ奏法」を大幅に向上する事ができた、とお話しました。

その後、「キーボードのアフタープレッシャーと、アフタープレッシャーが効かないピアノとでは奏法が違う筈。両者の関連について、もっと書いてくれ」というご意見を頂きました。

なるほど「キーボードのアフタープレッシャー」と「ピアノ奏法」とは無関係といえば無関係ですし、そもそも「アフタープレッシャーやピアノ奏法」と絡ませてお話する筈だった「リズム感」の事についてお話していないままでした。

という訳で、今日は「アフタープレッシャー〜ピアノ奏法(アフタータッチ)〜リズム感」についてお話しましょう。

キーボードの「アフタープレッシャー」とは?

そもそも「アフタープレッシャーとは何か?」ご存知でない方もおられましょうから、改めて説明しますと、キーボード(シンセサイザー等)の「鍵盤を押さえた後、更に押し込んだり、鍵盤を左右に揺らす事で音に変化を与える」というシステムの事です。



「デジタルキーボード(シンセサイザー等)」には備わったシステムですが、例えばキーボードで「ギターの音色」を演奏する場合、ギターの弦を弾いた後の「きぃーん」という「音の変化」を、鍵盤を押し込んだり、左右に震わせる事で表現できます。

中級価格帯以上の「デジタルキーボード(シンセサイザー)」には備わりますが、電子ピアノや、「デジタルキーボードだけどピアノ鍵盤」が備わった機種には備わりません。
(ヤマハの最高機種であるMontage-M8はピアノ鍵盤ですが、例外的に「アフタープレッシャー」が備わりますが)

ピアノにも「アフタープレッシャー」機能はあるか?

ところで「デジタルキーボードのピアノ鍵盤版」や電子ピアノには「アフタープレッシャー」機能が備わらないのは、

アコースティック・ピアノには「アフタープレッシャー」機能がないからです。

尤も「本当にないのか?」と言えば、僕は「そうとも言えない」と思います。

そういえば、かなり以前の話になりますが、神戸に「スタインウェイのショールーム」があった頃、僕は時々出入させて頂きましたが、いつだったかショールームのマネージャーさマネージャーさんから「スタインウェイは、鍵盤を弾いた後、更に押さえると音が変わります!」と言う話を伺いました。

つまり「スタインウェイはアフタープレッシャーが効く」という訳ですが、同行していた友人であるピアノ技術者は、後になって「そんな馬鹿な事があるか」と笑っていました。


そこで、当時、僕の自宅用に愛用していた国産「ディアパソンのグランドピアノ(183E)」で「アフタープレッシャー」を出してやると、その友人は腰を抜かしていました。



まぁ、実際には、「鍵盤のガタ」を利用(悪用?)している訳で、ピアノ調整の観点からは宜しくない事なのかも知れませんが、僕の個人的経験では、スタインウェイよりも、昔のベーゼンドルファーやプレイエル等のいわゆる「シングルアクション」の方が「楽にアフタープレッシャー」が使えました。

且、僕自身はいわば「アフタープレッシャーが使えるピアノ」を「個人練習用」として求めて来た訳ですが、「本番」の際には「楽に弾ける」ダブルアクションが便利ですね。

そういう意味で「ピアノにもアフタープレッシャー機能はある!」と言える訳ですが、実際にはピアノに関しては「アフタープレッシャー機能の有無」よりも重要なのが「アフタータッチ」なのです。

キーボードのアフタープレッシャー機能=ピアノのアフタータッチとペタリング

ピアノには「アフタープレッシャーは無い!」としても、「アフタータッチはある!」と言い切れるのは、「アフタータッチ」は「奏法」ではなく、ピアノの鍵盤機構だからです。

ピアノ鍵盤を押さえると中央辺りに抵抗がある筈ですが、この抵抗以後を「アフタータッチ」といいます。

このピアノの「アフタータッチ」は、演奏者がどうこうできるものではない、という事になっていますが、実はピアノによっても、演奏者によっても、大きな違いがあります。

尚、ここでは、本来の意味とは少し異なりますが、解りやすくする為に「アフタータッチ=「鍵盤の上げ方」とします。

そしてキーボードのアフタープレッシャーにほぼ相当するものとして「アフタータッチ」が演奏の質を大きく左右します。

日本人は「アフタータッチ=鍵盤の上げ方」に無神経だ

演奏に関していえば、日本人は一般的に「鍵盤をどう押さえる(或いは叩く)か?」については神経を尖らせますが、「鍵盤をどう上げるか?いつ上げるか?」については無神経な人だと思います。

敢えて言えば、演奏者のみならず、国産ピアノも「鍵盤の離し方」が曖昧、つまり無神経な物、或いは、いい加減に調整された物が少なくありません。

ニューヨーク・スタインウェイは極めて敏感なタッチを持つから、下手糞には向かない

少し話が脱線しますが、演奏者が「鍵盤をどう押さえた?」と共に「鍵盤をどう上げたか?」に敏感に反応できてこそ「良いピアノ」と言えますが、僕の経験範囲で言えば、国産でも「良いピアノ」もあります。
以前も書きましたが、ヤマハのCFⅢSが発売された際に使わせて頂きましたが、これは「とても良いピアノ」だと思いました。音は良いとも思いませんでしたが…。

逆に、或る会場のピアノは「ハンブルグ・スタインウェイのセミコンサート・グランド」なので安心して出向きましたが、「鍵盤を上げるタイミング」が国産ピアノ並に曖昧で、感心しませんでした。

そういえば、これも、僕個人の経験に過ぎませんが、同じスタインウェイでも、ハンブルク製よりもニューヨーク製の方が「タッチがシビア」つまり「鍵盤を押さえるタイミング」も「鍵盤の上げるタイミング」も明確に出るように感じました。


従って演奏者が「下手糞」だと、ニューヨーク・スタインウェイの場合、「下手糞加減が丸出し」になってしまいます。そういう演奏者は、だから反省し、精進すれば良いのですが、「ガサツな演奏」の原因が自分ではなくピアノにあると勘違いし、「ニューヨーク・スタインウェイはB級品だ」などと吹聴して回るから困ったものです。

確かに「曖昧なタッチ」に調整されたスタインウェイなりベーゼンドルファーなりの「良く響くピアノ」を、日本人好みの「残響だらけの空間」で弾けば、カラオケなみに「下手糞でもマシに聴こえる」のでしょう。

しかし、少なくとも「練習」に関しては「シビアなタッチ」に調整されたピアノを、残響のない空間で厳しく行うべきでしょう。

「アフタータッチ」は「リズム感」が決める

「アフタータッチ=鍵盤を上げる(離す)タイミング」は演奏の非常に重要な要素ですが、前述のような「鍵盤を押さえるタイミング」には注意を払っても、「鍵盤を上げる(離す)タイミング」は無神経なのが大方の日本人です。

これは日本人ピアニストによくある「ペダルを踏みっぱなし」にする「下手糞な演奏」も原因の一つです。

小節の頭からダンパー(サスティーン)ペダルを踏めば、当然、どこで鍵盤を上げようとも関係がなくなります。

ペタリングについては別な機会にお話しますが、原則として「鍵盤を弾く前にはペタルは踏まない」「踏んだペダルは、次の音を弾く前に離す」という事になります。
(音を持続させる場合は、グランドピアノの中央ペタルを用います。)

ところで「アフタータッチ」云々のお話をしますと、時々「そういう奏法を教えて欲しい」という問合せを頂く事があります。

ピアノレッスン自体はお請けしますが、「何々奏法講座」的な「奏法」のみを切り離してお教えする事は全く無意味なのでお請けしません。などと言えば「何々奏法講座」を開催されておられる先生の営業妨害になりますけど(笑)。

なぜ「奏法のみのレッスン」をやらないのか、といえば、確かに「鍵盤を上げるタイミング」を意識する事は重要ですが、こればかりを訓練しても「使えない」からです。

というのは「アフタータッチ=鍵盤を上げるタイミング」を決めるのは、「何々奏法の訓練」ではなく「リズム感」だからです。

オンビート=鍵盤を弾く、オフビート=鍵盤を上げる


根本的に日本人に欠落する「音感」として「ビート」の「オン」と「オフ」があります。

言葉こそ「オンビート」や「オフビート」を知っている人は少なくありませんが、実際に演奏させると「オンビート」しか意識できない、つまり「オンビートだけの演奏」になる人が大部分です。

これはクラシックに限らず、ジャズやロック、或いはダンスミュージックと称する音楽もしかり。

非常に大雑把に説明しますと、「オンビート」とは「上から下に落ちていく拍(ビート)」であり、「オフビート」とは「下から上に登る拍(ビート)」です。

正確に言えば「オンビートしかない音楽」というものは存在せず、オンもオフもなく、ナメクジのように横に移動するだけ、という音楽感覚という事になります。

とりあえず説明し易い様に「オンビート」はある、としますが、「下から上に登る」という感覚は日本人の100人中少なくとも90人位はないようです。

例えば四拍子の場合、一拍の中に「オンとオフ・ビート」があり、四拍子も一拍目は「オン(落ちる)」二拍目は「オフ(上がる)」三拍目は「オン(落ちる)」四拍目は「オフ(上がる)」となります。

更には一小節目全体が「オン」、二小節目全体が「オフ」ともくくれます。

ピアノ鍵盤の演奏でいえば、フレーズを弾く事は「オンビート」であり、フレーズの終わりが「オフビート」になります。

先ほど「何々奏法だけのレッスンはお請けしない」と言いましたが、「鍵盤を上げる、下げる」については、同じような八分音符が並ぶとして、全ての音符が「オン」と「オフ」に分離するし、或いは右手左手で「オン」と「オフ」の場所が変わってきます。

従って事前に「何々奏法」として「オンビートとオフビートの練習」をしても、実際の曲はもっと複雑だからです。

また「何々奏法」なぞ意識しなくても、「音楽自体のオンとオフ」を意識すれば、必然的に「正しい位置で鍵盤を落としたり上げたり」する弾き方になるからです。

ジャズとクラシックとで「オンビートとオフビートの関係」は変わらない


以上の理由から「リズム感」つまり「オンビートとオフビート」を理解すれば、必然的に「鍵盤の上げ方=アフタータッチ」を意識するようになります。

大雑把に言えば、必要がある部分をギリギリまで鍵盤を押さえ、パっと鍵盤を上げる訳ですが、日本人は一般に「鍵盤を上げる速度」が遅いし、国産ピアノ自体の「鍵盤が上がる速度」も遅いといえます。

動く「速度」が遅いから、「早目」に「ゆっくりした速度」であげる事になります。

日常生活ならば「早目に家を出て、ゆっくり歩いて目的地に向かう」のは良い事ですが、ピアノに関しては逆で「ギリギリまで待ち、速い速度で移動する」が正しい事になります。

よくYouTube等でピアノ屋さんや技術者がピアノを紹介する動画として、ご自身で演奏しているシーンを観かけますが、営業専門の方が何を弾こうと、それは微笑ましいと見過ごせます。

しかし技術者が、自分が調整されたピアノを弾く際に、演奏するテンポはなんでも良いのですが、「鍵盤の上下」を「ゆっくり」しかできないのを観ると、そのピアノの調整自体も「間違っているのではないか」と心配になります。

どんなテンポであろうが、どんな曲想であろうが、鍵盤の上下は速い速度を弾くべきですが、この部分に関しては「日本人の指」は極めて不器用であり、欧米人と比較して、繊細には動かないようです。(鍵盤の上をちょこまかと動きまわる事に関しては、日本人に限らず、中国人も大したものですが)

ところで「ピアノのアフタータッチ」を決める「オンビートとオフビート」ですが、ジャズとクラシックとで変わるのか?という疑問を持たれた方もおられるかも知れません。

或いは「クラシックは、ジャズと違い、オンビートとオフビートなぞないっ!」と思われたかも知れません。

それは全て間違いで「和製クラシック」或いは「和製ジャズ」でない、「本来のクラシック」や「本来のジャズ」はオンビートやオフピートで音楽が構成されています。

クラシックに関しては、どちらかといえば、第二次世界大戦以前からの巨匠であるドイツのフルトベングラーやバックハウス、フィッシャー、ケンプ等、フランスのコルトーやフルニエのような巨匠の演奏の方が「オンビートとオフビート」の感覚が明瞭です。

という訳で、「オンビートとオフビート」について、もう少し突っ込んで考えてみたいと思います。(つづく)

大阪梅田芸術劇場北向い Kimball Piano Salon音楽教室講師
Lee Evans Society of Japan 代表 藤井一成
http://www.eonet.ne.jp/~pianosalon/Kimball_Piano_Salon
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:資格・学び

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。