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ホロヴィッツと中村紘子の違いで学ぶ「ジャズのノリ」 [Lee Evans Society]

「クラシックとジャズのノリは違う!」という意見はよく聞きますが、結論から言えば、「それは間違い!ジャズとクラシックのノリは同じ!」と断言します。

「一拍三連」が「ジャズビート」の基本

そもそも「ジャズビート」とは何なのか?

これは大雑把にいえば「ジャズビート」とは「一拍三連」と呼ばれるリズムが基本となります。例えば「リー・エバンス・メソッド」のピアノ教本(Jazz Matazz )には下記の用の表示があります。

これは楽譜上に八分音符が二つ並んでいる場合、三連符の二つと一つに変える、という意味です。
基本.png



例えば、こちらは、僕の教室の「Lounge Jazz Moods科」の基本教材である「オスカー・ピーターソンのエチュード(某国内出版社からは「オスカー・ピーターソンのジャズハノン」という奇妙な翻訳タイトルで出版されていますが」ですが、一拍目には三連符がありますが、後は八分音符が続きます。

おす.png


突然「ノリ」を変えて弾くのではなく、楽譜上は「八分音符二つ」ですが、実際には「三連符」で弾きます。

尤も「楽譜上は均等に八分音符二つ書き、演奏する場合に三連符に変える」という約束になったのは、多分、1950年代頃かと思います。

それ以前は、流石に「三連符」で表記する事はありませんでしたが、「付点8分音符と16分音符」で表記したりしたようです(下は1940年代頃に編曲されたテディ・ウィルソンの譜面)

テディ.png


これは「付点8分音符と16分音符」で記譜されていますが、実際には「三連符の2;1」で弾きます。

これを「ジャズ三連(Jazz 8th)」と呼びます。

ところで「付点8分音符と16分音符で書かれたクラシック曲」は沢山あるが、実は、これも3:1ではなく、2:1の「ジャズ三連」で弾くべきです。

なんて書くと「えっ、クラシックの名曲を勝手にジャズ化して構わないのか?!」と驚かれるかも知れませんが、これは「ジャズ化」ではなく「伝統的なクラシックの弾き方」なのです。

ベートーベン交響曲五番アダージオは「ジャズのノリ?」

例えばベートーベンの交響曲五番「運命」の二楽章「アダージオ」は、或る意味、有名な一楽章よりも「名曲」だと僕は思いますが、この曲は楽譜上は「付点8分音符と16分音符」で書かれていますが、実際には「ジャズ三連(正確には「クラシックのノリ」」で弾きます。楽譜はhttps://store.piascore.com/scores/48080

PMS001944_1.jpg


試しにYouTube動画を観ましょう。

https://youtu.be/E7MbdTSQhw0?si=4EXez80IRdN88LGz

これはクルト・マズア指揮、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
が1970年代に録音したレコードですが、当時、ドイツは東西に分かれており、
西ドイツが、ベルリンフィルでさえ「国際化(アメリカ化?)」していたのに対し、
東ドイツのオーケストラは「戦前からのドイツの伝統を色濃く残した演奏」をしました。

要するに「ドイツの伝統的な演奏」だと「付点8分音符と16分音符=ジャズ三連」となります。

或いは戦前のドイツ最大の巨匠フルトベングラーが1950年代に録音した「アダージオ」 (これはオーケストラがローマ交響楽団ですが)も「ジャズ三連」となっています。
https://youtu.be/87TZqxvhuAg?si=RKNU5zWDHsuI1FMA

但し「クラシック」と呼ばれる演奏家の全員がそうなるのか?といえば違っており、
少なくとも「日本のクラシック演奏家」は「伝統的なクラシック」とは異なった演奏を行います。

平均的な日本人がやると「お猿のかごや」になる

ダシにして申し訳ないが、これは志音会オーケストラの演奏。
https://youtu.be/y1Txndf4tHI?si=opeQIi8zle_ap3ij

「ジャズ三連」云々以前に、一拍内の後の音が薄くなり、「拍頭」だけのノリとなっています。これを僕は「ドンパン節」と呼んでいますが、折角のベートーヴェンが、どうしても「えっさ、ほいさ」という「おさるの籠屋」に聴こえてしまいます。

とは言え、アマチュア~セミプロの方々によるオーケストラで、ここまで演奏できれば立派とも言えますが、もう一歩踏み込んで「クラシック音楽のノリ」で演奏できれば最高ですね。

敢えて事例は出しませんが、ジャズも似た状況ですが、不思議な事に1970年代頃のジャズに限らず、クラシックや歌謡曲ですら「ドンパン節」ではない欧米的なノリの演奏家や歌手は少なくありませんでした。

ザピーナッツ「スターダスト」https://youtu.be/olhmZH0v5d8?si=-1ofvdQG79yUvMPb
歌手も伴奏も「本物のジャズ三連」してます。

勿論、日本人で「欧米のクラシック」と同じ感覚の方が増えている事は言うまでもありません。

そもそも三連符はどう弾くべきか?

ドイツやフランス等の「ヨーロッパの伝統的なクラシックのノリ=ジャズ三連」と、「平均的な日本人のノリ=ドンパン節」がなぜ違うのか?について暇な方は研究されると宜しいかと思いますが、本来のクラックやジャズのノリはどうあるべきでしょうか?

そこで今日は基本的な「三連符」が中心になる曲としてベートーヴェンの「月光」を例としました。
この曲の伴奏というか基本リズムとして「ソドミ、ソドミ」という三連符が登場します。
月光.png


この三連符については「ドンパン節」系の方はクラシック、ジャズ問わず「タ・タ・タ」と全てを「オンビート(上から下に落ちる)」のみで演奏します。

実は三連符に限らず一拍は「円」になっており、かつ「三連符」の三つの音符は「均等の長さ」ではなく、敢えて書けば「ソドミ」ではなく、「ソドーミ」であり、最後の「ミ」は「円」の山を越えて、落下する動きと繋がっています。

幸いにも「良質な楽譜」の場合、三連符を均等の長さに書いておらず、微妙に、最後の「ミ」と次の拍の「ソ」を接近させています。

ホロビッツと中村紘子を聴き比べる

ちなみに、この「月光の曲」を聴き比べてみました。

先ずは「二十世紀最大の巨匠ピアニスト」といわれたウラディーミル・ホロビッツの演奏。

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第14番 ≪月光≫ 嬰ハ短調 Op 27-2  ホロヴィッツ Beethoven Piano Sonata No.14
https://youtu.be/26kw9YP7Lkg?si=EfIQ5ZkXpsl8vhRg


これは米国CBS時代の録音で、後のドイツ・グラモフォンの録音と比較すると「残響がないスタジオ」録音という事もあり、タッチやペタリングの細かいニュアンスがより鮮明にわかります。

日本人は「残響コンプレックス」があるのか、「残響が長いと下手糞を誤魔化せる」からなのか、やたらと「残響が長いホール」やら、そういう環境で録音されたレコードをありがたがりますが、当時のCBSにおける録音は、ホロビッツ自身の希望もあり、「残響なし」「マイクが接近している」であり、タッチがよく見えます。

ホロビッツは三連を、釣り針のような方で「円」を描いて演奏します。

また四拍子についても「ジャズ的(?)」なバウンドがあり、美しい立体構成を描きます。

対して日本を代表するピアニストである中村紘子さんの演奏を聴いてみましょう。

中村紘子/ピアノソナタ第14番嬰ハ短調op.27-2「月光」(ベートーヴェン)
https://youtu.be/oQ_pUdLd6bY?si=TFj2R3nNWBvakmp5

三連符が「タタタ」と「オフビート」の連続、つまりホロビッツのような「円」ではなく、「お坊さんが木魚を叩く」ようなノリになります。

また四拍子に関してもバウンドはなく、尺八のような「音が自然消滅」する感じ。

ホロビッツは紛れもなく「ヨーロッパのクラシック音楽の伝統」の伝承者の一人ですが、中村紘子さんは、なんだか「座禅をくんでの瞑想」をするような音楽になっており、「ヨーロッパの伝統」とは相当に違った感覚で演奏されておられます。

違うからダメ、とも言い切れず、「仏教音楽のようなクラシック」というのもアリですが、違いは認識しておくべきでしょう。

ついでに比較的若いピアニストで絶大な人気を誇るエレーヌ・グリモーさんの演奏を聴きましょう。

Beethoven:Moonlight Sonata -Adagio sostenuto- hélène grimaud,piano
https://youtu.be/buVzKH7T5CU?si=nc9QIi8ggwLJCDQ2

見事に「三連符」が「ジャズ三連」になっており、且、四拍子も見事に「ジャズのノリ」と同様のバウンスを持ちます。

説明は省きますが、ホロビッツと同年代の巨匠クラウディオ・アラウも同じです。

Claudio Arrau Beethoven "Moonlight Sonata" (Full)
https://youtu.be/W0UrRWyIZ74?si=hRoAbefl8v-pEyLK

戦前の巨匠ヴィルヘルム・バックハウスも同じ
BACKHAUS & BEETHOVEN'S 'MOONLIGHT' SONATA
https://youtu.be/w1uQ8sLZIy0?si=54BkgJjNSvzyKRhr


僕は、或る意味「中村紘子さんに憧れてピアノを始めた」程の中村ファンではありますが、純粋に音楽的に言えば中村さんの「仏教的(?)なノリ」は、「欧米のピアニストのノリ」とは相当違うな、と思います。

この「月光ソナタ」に関しては、日本人が演奏すると、三連の基本リズム、つまり「ジャズのノリ」に注意が回らず、「座禅のような瞑想」を期待してしまう事が、果たして「ベートーベン本来の演奏」から逸脱していないか?という問題は起こります。

日本的な「座禅の月光」の対極にあるのがグレン・グールドの演奏。
https://youtu.be/HoP4lK1drrA?si=sOE1gJuca123ycSg

これは「座禅」を期待する人の願いも空しく、「ベートーヴェンの楽譜に忠実」な演奏が行われます。(グールドの演奏については、別の機会にお話ししたいと思いますが、「楽譜が読めない評論家」先生達がいうような「気ままな演奏」では全くなく、「楽譜の深部迄徹底的に洗い出した」本来の演奏だといえましょう。)

「ジャズとクラシックのノリ」を比較する以前に、「クラシックのノリ」と「日本人のノリ」について認識すると共に、そもそも「ジャズとクラシック」問わずに「三連符」の感覚が日本人と欧米人とでは全く違う事。

またクラシックは三連符の使用は「控えめ」だけど、ジャズは基本的に三連符である。という「料理の仕方」が違う、という事も認識しましょう。

つまり「三連符の形」は、いわば食材であり、その使い方、つまり「料理」はクラシックとジャズでは異なる、という事になります。

次回はその事について詳しくお話したいと思います。つづく

ついでにお薦めのジャズピアニストであるジョン/ルイスのソロをどうぞ。

https://youtu.be/7E-FESqeN98?si=rHUB60SH_mqgu-X3

大阪梅田芸術劇場北向い Kimball Piano Salon音楽教室講師
Lee Evans Society of Japan 代表 藤井一成
http://www.eonet.ne.jp/~pianosalon/Kimball_Piano_Salon

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