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クラシックピアニストの為のジャズ・レッスン/ショパンが原点 [レッスン]

「クラシックピアニストの為のジャズピアノレッスン」というテーマの三回目。

前々回に「ジャズピアノの巨匠アート・テイタムを、クラシックピアノの、20世紀最大の巨匠ウラディーミル・ホロビッツ が賞賛した」と書いた所、「その理由を教えて !」になんてご要望もあり、前回は詳しく書く予定でした。

ところが、あるクラシック系音大の学生さんから「ジャズピアノを学びたい気もするが、クラシック経験がダメになるのではないと心配しているが、実際、どうなのか?」というご質問が入り、それについての回答を前回は書きました。

それで、今日こそは「テイタム&ホロビッツ 」について書くつもりでしたが、始めに僕が「クラシックピアニストにオススメのジャズはレトロスウィング系なストライドピアノだ」と書いた所、「肝心のストライド・ピアノがどういうものが分からないから説明してくれ、というご指摘メールをいただきました。

という訳で「テイタム&ホロビッツ 」に付いては次回お話しするとして、今日は「クラシックピアニストにお薦めのジャズスタイル」である1930〜40年代の「ストライドピアノ」に付いてお話しします。
ストライド奏法とは?

何度もこのブログで書きましたが、日本で「ジャズ」を意味する「ライブハウスでセッションする1950〜60年代スタイルのモダンジャズ」だけではなく、1920年代の「ニューオリンズ・ジャズ」や1930年代の「スウィング・ジャズ」等様々あります。

「ストライドピアノ」は、1920〜40年代頃に発達(流行)した「スウィングジャズ」の一種、つまり「ピアノソロ」を前提とした系音楽スタイルです。

「ストライドピアノ」のいわれは、「ストライド」と呼ばれる「奏法=編曲法」が多用される事にあります。では「ストライド奏法」とは何かと言えば、下記の楽譜のように、左手が10度(例えばドとオクタープ+3度上のミ)のベースを弾き、次にその10度を「ストライド(またいで)」して和音を弾きを、繰り返し続ける事にあります。
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尤も実際の「ストライドピアノ」は、「ストライド奏法(編曲法)」ばかりやる訳でなく、様々なピアノ奏法(編曲法)が用いられます。

下記は「ストライドピアノ」の最高峰、アート・テイタムの即興演奏を採譜した楽譜ですが、そもそも1ページ目には「ストライド奏法」は登場しません。
 
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実際に楽譜を弾く、この「10度と和音を交互に弾くストライド奏法」はなかなか難しく、それ故、
「ショパンやリストのピアノ曲が弾けるクラシックピアニスト」にこそ、「ストライドピアノ」修得を目指して頂きたい訳ですが、「ストライドピアノ」の最初の全盛期は1920年代頃でした。

1920年代のニューヨーク、当時は高級住宅街だった「ハーレム」のクラブでは夜な夜な「ストライドピアノ」の華麗な演奏が競われました。

当時の巨匠、JPジョンソン、ユーピー・プレイク、ウィリー・ザ・ライオン・スミス等の黒人ピアニスト達は、正に「超絶技巧」と共に「高い音楽性」で聴くものを酔わせます。

その中の一人、1890年代の生まれの「ユービー・ブレイク」の演奏をご紹介しますが、勿論、1920年代(当時は録音できず自動ピアノに録音)や1930年代の素晴らしい演奏もありますが、敢えて1970年代、つまり、ブレイクが90歳頃のコンサートの様子を収めたこの動画を観てみましょう。

https://youtu.be/21SMdsr-i78

ブレイクは、この十年後に「100歳のコンサート」を催した程に元気で長生きしました訳で、この90歳頃は、十年後と比較すれば「若い頃(?)」と言えなくもないのですが、流石に壮年時代と比較すれば、技術的には衰えている筈ですが、それでも「華麗な技法」は健在。

また「音楽的」には、無駄がない立体的な構築と、豊かな歌ごごろとで、音楽として楽しめる演奏である事は確かです !

同じく1920年代の「ハーレム・ストライド」の巨匠、ウィーリー・ザ・ライオン・スミスの1965年、パリでのライブ演奏動画を観てみましょう。

https://youtu.be/_j_xXlHZr5g

しっかりしたピアノ技術と、ハッピーな雰囲気、しっとりした情感で、とても楽しめます。

この「ストライドピアノ」の全盛期である1920〜40年代頃にかけて、どうも米国の観衆は、ジャズに限らずクラシックでも、ピアニスト対し「超絶技法」を求める傾向があったようです。

例えば1930〜40年代に「ストライドピアノ(ジャズ)」とクラシックピアノの両分野で「天才少女」と呼ばれた黒人のヘンゼル・スコットの演奏を観て下さい。

https://youtu.be/OSkfgxe0oFw

物凄い技巧ですね。10度と和音を交互に弾く「ストライド奏法」も凄まじい。

しかし、僕はヘンゼル・スコットによる、この手の「超絶技巧」をひけらかす演奏は、あまり良いとは思いません。ヘンゼル・スコットは、黒人女性ですが、ジュリアード音楽院でクラシックピアノを学びました。(黒人がジュリアードでクラシックを学ぶ事自体は、珍しい事ではなかったようですが)。

そしてスコットは「超絶技巧」のみならず、「高い音楽性」の持ち主でしたが、どうも市場から、「超絶技法の見せびらかし」を要求され、かえって「音楽性」について注目されなかったようです。

ちなみに「超絶技巧」という点では、時代を少し進む1930年代もキラ星揃いですが、やはりアート・テイタムの演奏は群を抜いてしました。

https://youtu.be/aNAJlqn0nO4

凄まじい技巧ですが、しかし、高度な音楽性を有するのがテイタムの素晴らしい所です。

何れにせよ、テイタム的な事をピアノ演奏しようとするならば、「ショパンの練習曲全曲を習得した経験」がある方が有利な事は確か。それ故、「クラシックピアニスト」にこそテイタムのような「ストライドピアノ」がお薦めな訳です。

ちなみに私自身は、テイタムの技巧は無理なので、テイタムの音楽構造を模倣しつつ、ずーっとシンプルな独自のストライドピアノのスタイルを作っていますげとね。

ストライドピアノの原点は「ラグタイム」or「ショパン」?

「ストライドピアノ」には「ストライド奏法」だけではなく、様々なピアノ音楽の要素で構築されている、と前述しましたが、では「ストライド奏法」自体は、いつ生まれた?と思いますか?

いわゆる「ジャズ史」の通説では、1930年代の「ハーレム・ストライド」を遡れば、1920年代の「ニューオリンズ・ジャズ」が見えてきます。

「ニューオリンズ・ジャズ」の自称「創始者」であるピアニストで作曲家のジェリーロール・モートンの演奏を聴いてみましょう。

https://youtu.be/ujFWZrs6pow

これも「ストライド奏法」の一種ですが、まだ「10度のベース」は用いられず、単音のベースと和音の繰り返しだったようです。

ちなみにモートンの音楽スタイルは「ストライドピアノ」だけではなく、今でいう「ラテン音楽」的なものもあります。

https://youtu.be/MkGjDbKauVo

このジュリー・ロール・モートンは、映画「海の上のピアニスト」でも「ジェリーロール・モートン」として登場します。

https://youtu.be/6yHLYc8IJT0

尤も誰が演奏しているのか知りませんが、本物のモートンの演奏と比べると「品格」がなく、僕なんぞは、このシーンだけで映画全体のイメージが悪くなった程ですが、要するにモートンは素晴らしかった、という訳ですね。

ラグタイムが「ストライドピアノ」の原点?

更に「ニューオリンズ・ジャズ」を遡ると、19世紀末から1910年代に流行した「ラグタイム」というスタイルがあります。

ピアノ発表会の定番、スコット・ジョプリンの「エンターティナー」も「ラグタイム」の名曲の一つと言えます。

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「ラグタイム」も「10度の左手ベース」はなく、単音と和音の繰り返しに止まりますが、「ストライド奏法」である事にはなく、「ストライドピアノの原点」は「ラグタイム」と言っても間違いではなさそうです。

では「ラグタイム」の原点は何かと言えば、19世紀末当時、ニューオリンズで人気が高かった「マーチ・バンド」でしょう。

「マーチ」をピアノ編曲した例として、運動会でよく使われる「クシコスの郵便馬車」という曲の楽譜を見ますと、簡単な「ストライド奏法」が用いられている事が分かります。

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19世紀末、「マーチの王様」と呼ばれたジョン・フィリップ・スーザによって多くのマーチが作曲され、軍楽隊を始め、多くのマーチバンドが結成されました。

その「マーチ」をピアノに移したのが「ラグタイム」な訳で、結局、「ストライドピアノ」を原点に遡れば「マーチ」になるのか、と言えば、これも違う訳ですね。

ショパンのノクターンが「ストライドピアノ」の原点 !

「ラグタイム」については、改めて別の機会に詳しく述べたいと思いますが、元々は「クレオール」と呼ばれた混血黒人によって作られたピアノ、バイオリン、クラリネット等の「室内楽」的な音楽だと言えます。

米国史ではつい避けられてしまうようですが、南北戦争以前のニューオリンズは、少し前までフランス領土だった事もあり、フランスの法律で州が運営されていました。

フランスの法律では奴隷黒人(女性)と主人である白人(男性)の間に生まれた子供は、奴隷ではなく、主人の側、つまりは「白人(フランス人)」として扱われ、フランス式の教育を受けました。

やがては成人した「クレオール」は父の財産を相続し、つまり「奴隷農園の主人」に収まる人が多かったようです。

この辺りの「史実」については、タブー視されているようですが、混血とはいえ黒人である「クレオール」達は、「奴隷農園の主人」として奴隷達を過酷に搾取し、或いは南北戦争では、南軍(奴隷解放反対)として戦った訳です。

或いは南北戦争終結までは、ニューオリンズの市会議員や銀行の半数が「クレオール」だった程で、今の価値観では「黒人」ながら、当時の「クレオール」の大多数が中産階級の生活を甘受したようです。

ところが南北戦争の敗戦によって、奴隷制は崩壊し、つまり「農園経営」が難しくなった事、新たに制定された北部式法律により、「クレオール」は「黒人」に分類されるようになった事等で、要するに「クレオール」の没落が始まります。

結局、没落した「クレオール」は、女性は、元の屋敷を改装しての高級「売春宿」を経営し、男性は「売春宿のピアノ弾き」に収まった、というのが定説です。

ところで「クレオール」達は、元々「フランス人」として、フランス式の教育を受け、フランス語を話し、音楽については「クラシック音楽」を演奏したようです。その際、トランペットやサックスのような屋外楽器ではなく、ピアノやバイオリン、クラリネットのような室内楽器が選ばれた訳で、「ラグタイム」もやはりピアノやバイオリン等の室内楽的な音楽でした。

ここで注意したいのは、日本に限らず、米国でも「ラグタイム奏者」というのは、例えばライブをすれば全曲「ラグタイム」で演奏しますが、本来の「売春宿のピアノ弾き」は「ラグタイム」ばかりをやっていた訳でなく、バラードやワルツ、ポルカ等、なんでも演奏し、また、演奏できる技能を有しました。

記録によれば、「売春宿のピアノ弾き」の収入はなかなかのもので、今の価値で言えば、一晩に十万円位稼ぐのもザラだった上、多くは、売春婦のヒモになり、かなり怠惰な生活を送ったようです(羨ましい/笑)

クレオールによる「ラグタイム」が生まれたニューオリンズには、他には元奴隷の黒人達による、解散した南軍の放出楽器にブラスバンドの「マーチ」、或いは娯施設で歌われた「ブルース」等がありました。

それらの三種の音楽は、いわば敵対していたようですが、1920年代の南部不況の際、黒人が北部へ一斉に大移動し、東部のNYは遠いので、中間に位置するシカゴに彼らが止まった末、「ラグタイム」「マーチ」「ブルース」等が融合して作られたのが前述のジェリーロール・モートン(ピアノ)やルイ・アームストロング(トランペット)、シドニー・ベシエ(クラリネット)等による「ニューオリンズ・ジャズ」です。

では、それらの動きと「クラシック音楽」が関係していたのか?という問題ですが、私は「ある」と断言できます。

というのは、前述のように「クレオール」達はフランス式教育、つまりは「クラシック音楽」の素養があった、という事もありますが、特に1920年以後、NYで発展した「ハーレム・ストライドピアノ」にショパン等の影響が多く見られるからです。

下記はショパンの「夜想曲」のいくつかの曲の一部ですが、完全に「ストライドピアノ」しています !
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そしてNYに住む黒人音楽家には、これらのクラシック音楽を学ぶ機会は充分にありました。何故ならば、黒人達同様に貧しい生活を強いられたヨーロッパ移民の中には、優れた音楽家は少なくなく、つまり1920年代当時としては最新のメソッドでクラシック音楽を学ぶ事が可能だった訳です。

それらの音楽技法が「ハーレム・ストライド」を構築していく要素になった筈です。

ショパンやリストの学んだ経験が「ストライドピアノ」では完全に活かせる

私の結論として、JPジョンソンやユービー・ブレイク、ライオン・スミス等の1920年代の、アート・テイタム、テディ・ウィルソン、アール・ハインズ等の1930年代の、「ストライドピアノ」の巨匠の音楽の背景には、ショパンやリスト等の「クラシック・ロマン派」が強く影響していると言えます。

つまり「ストライドピアノ」を習得する「過程」として「ショパンやリストの習得」が必要だ、という訳ですが、例えば「プロのジャズピアニスト」であっても、今までショパンやリストの音楽を習った事がない人が、これからショパンやリストを始めるとなれば、それは無理でしょう、としか言いようがありません。

しかし、既にショパンやリストを学んだ経験のある「クラシックピアニスト(趣味で習うピアノ学習者も含め)」ならば、「ストライドピアノ」習得に必要なスキルの内、少なくとも七割は既に有している、と言えましょう。

後の三割を学べば、「プロのストライドピアニスト」としての活躍は夢ではありません。

という訳で「クラシックピアニストの為のジャズピアノ」として「ストライド」をお奨めすると共に、僕のところでレッスンを始めていますので、リアル(大阪梅田)或いはオンラインでの受講が可能ですのでご興味がある方は下記ホームページからメールでご連絡下さい。或いは電話もOk。

次回「アート・テイタムとホロビッツ の関係」についてお話しします !つづく

大阪梅田芸術劇場北向かい Kimball Piano Salon 音楽教室 主宰 藤井一成
電話(070)5438-5371 (直) http://www.eonet.ne.jp/~pianosalon



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